概要 About This Project

コミュニケーション共生科学の創成

目的

 本プロジェクトでは、すべての特性をもつ人たちが同等に参加できる「コミュニケーション共生」のための新しい研究分野を確立することを目標としています。これまで「コミュニケーション弱者」「障害者」と呼ばれてきた人たちが、コミュニケーションのバリアを意識せずに、他の人々と同等に社会活動に参加できるようになるためには、現状のメカニズムを解明し、それぞれのニーズの違いとバランスをとるための基礎研究が必要です。このような科学的研究を進めることで、インフラ整備というハード面と一般社会の認識というソフト面の変化につなげ、誰もが参加できる共生社会を実現したいと考えています。

 そのために、人間文化研究機構の国立民族学博物館および国立国語研究所が協働拠点となり、これら二機関における言語および言語行動に関わるこれまでの研究成果を基盤として関連諸機関と連携することで、コミュニケーション共生に関する新しい研究分野を拓きます。

The Museum and the National Institute for Japanese Language and Linguistics collaboratively serve as the principal bases for this project, and promote research in communication symbiotic science. The Museum pursues basic and practical research on visual communication through sign language using accumulated research in sign language studies, non-visual communication using sound and touch, and brain activity related to language use. By primarily examining sociolinguistics, corpus linguistics, and Japanese language education, the National Institute for Japanese Language and Linguistics conducts problem-solving research and studies that address social problems occurring in interpersonal communication, especially those surrounding the social characteristics of each. This accurately elucidates the structure of language issues related to social difficulties. By cooperating with external researchers across various disciplines in the two institutions and its related fields of sociology, cultural anthropology, cognitive psychology, cognitive science, social psychology, medicine,neuroscience, and information engineering, the project seeks solutions to communication problems and paths leading to societal coexistence, including diverse languages and different communication modes.

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2025年度は、2年度目に開始した「横のつながり」「異なるコミュニケーション特性間の体験共有」を継続して展開し、さらに大きな分析につなげる。2024年度までのオンラインおよび対面でのさまざまな取り組みの結果、徐々にプロジェクト外とのつながりが広がり始めている。その結果、2025年度には、人文系以外の2学会からお誘いいただいての共同企画が決まるなど、徐々に、他分野からの当事者関与や人文社会科学系の研究の必要性が認められつつある。

これを受けて2025年度は、引き続き、各課題に即した実験や調査を行い、データ化するとともに、その成果を公開する。それだけにとどまらず、研究のプロセスに当事者研究者および協力者を含むことで、だれもが対等に参加できる会議やイベント実現に必要な要素や環境を分析する。そのために、引き続き、オンラインによる定例会の開催、他大学との連携によるユニバーサル・コミュニケーション前提での社会還元事業、および若手研究者を対象としたセミナーや教育プログラム開始のための準備をすすめる。また、新たにブックレットシリーズの刊行を開始することで、より広く、本プロジェクトの研究活動内容を広報する媒体とし、5年度目以降の活動につなげる。

令和7年度の実施計画

1) 【全体】研究班の横のつながりに重点を置いた研究組織の構築と他機関とのネットワーキングの継続。特に、プロジェクト外の団体やプロジェクトとのつながりを重視。

 i. 定例会(オンライン年4回)の継続

 ii. 対面での合同研究集会の継続。具体的な展示物やハンズオン素材を用い、コミュニケーション共生を前提とした展示物や制作品を囲んだ各班の視点からの観察やコメント、提案セッションを開催。多摩美術大学との協働も含む。

 iii. 日本リハビリテーション医学会との共同企画の実施(6月12-14日、京都国際会議場)

 iv. 日本発達神経学会との共同企画の準備と実施(11月8-9日、東北大学)

 v. 社会発信のためのブックレットシリーズの刊行開始

 vi. 筑波技術大学ISeeeプロジェクトとの共同による現場実装を視野にいれたシステム整備や開発の継続

2) 【視覚班】手話談話に関するデータ(準備プロジェクトおよび初年度収集)の公開

3) 【非視覚班】他班の研究内容とのつながりを意識したワークショップ等の継続、巡回展での実装等の継続

4) 【脳研究班】手話失語基準策定の信頼性に関する実験および評価の継続

5) 【特性班】自閉症者に関するデータの収録、整備、公開

6) 【特性班】ろう生徒の識字調査の実施準備

7) 【全体】共生科学関連の共同利用および大学等教育機関での研究推進基盤として、i)共生科学関連高等機関等への出張講義、ii) 若手研究者を対象としたセミナーの開催の基盤整備。 

1)【全体】研究班の横のつながりに重点を置いた研究組織の構築と他機関とのネットワークの整備をすすめた。より具体的には、オンラインでのふた月に一度の定例会の開催と、年二回の対面会議(会議部分のみハイフレックス)を開催した。前者では、班の間での成果や進捗の共有、後者では、外部講師による講演と質疑応答に加え、異なるコミュニケーション特性をもつメンバーとの共同作業を実際に体験する場をつくり、現実的な生活の場面でのコミュニケーションの在り方について、各自の専門の視点から観察しなおす機会とした。

2) 【視覚班】手話談話についてデータ収集を進めている。令和6年度中のデータ公開を目指す。

3) 【非視覚班】他班の研究内容とのつながりを意識したキックオフ研究会の開催、巡回展の実装を進めた。

4) 【脳研究班】手話失語基準策定の信頼性に関する実験および評価を進めた。

5) 【特性班】自閉症者に関するデータの収録および整備を進めた。

6) 【特性班】外国人調査データの整備および報告書を国語研リポジトリ上で公開した。https://doi.org/10.15084/0002000253

7) 【全体】共生科学関連の共同利用および大学等教育機関での研究推進基盤として、i)共生科学関連高等機関等への出張講義、ii) 若手研究者を対象としたセミナーの開催の基盤整備。

8) 【全体】現場実装を視野にいれた映像や展示品の整備や開発については、特に、非視覚班が巡回展やワークショップなどの開催により、活動を進めた。また、2025 年度に日本リハビリテーション医学会と共同でのコミュニケーションに関する展示および講演開催の依頼を請けた。2022 年開催の特別展示の言語ヒストリー部分を基盤とした準備に着手した。

9) 【全体】具体的な展示物や進行状況と成果の共有、2コミュニケーション共生を前提とした展示物や制作品を囲んだ各班の視点からの観察やコメント、提案セッション)については、1) で述べた研究会の形で開始をしている。

以上を踏まえ、今後の推進方策としては、原則、当初の計画に従って進める。特記すべきものとしては以下。

1) 定例会および対面会議を継続して開催する。とくに、本プロジェクトメンバーだけでなく、コミュニケーション関連の研究に広く関心を持つ他分野の研究者にも声をかけることで、将来的な学際研究にもつなげる。

2) 視覚班の編成の組みなおし、より社会貢献と実装につながる内容での研究事業を進める。2021 年から 2022 年にかけて収集した視覚班によるデータ公開については、前担当者が責任をもって進める。

3) 出張講義およびセミナーの開催の基盤整備には 2024 年度以降、どのような形で行うかも含めて検討・準備を進める。

4) 共有すべき内容を発信するおよび対面会議におけるトピックの中でとくに議論が盛んであったもの(識字率、航空機とコミュニケーション、チンパンジーのコミュニケーション)に加え、手話翻訳事業等、社会にひろく発信したいものを候補として準備を進めている。

 

共創先導プロジェクト・共創促進研究「コミュニケーション共生科学の創成」([仮]現存する各地で使われていた古い日本手話の語りの映像のDH化の方法および手順に関する検討)

日本手話に関する研究は、まだまだ遅れており、資料となる映像も少ない。一方で、各地の機関もしくは個人が所有する古い手話話者映像が存在することがわかっており、その保存および学術利用(適切な場合には公開)を想定したDB構築の検討と実現は、映像の劣化も鑑みると喫緊の課題となっている。具体的なデータとしては、各公共および私立の機関で補完している各地の手話話者による講演映像、その他にも個別で資料化する話も聞いている。さらに、個人の家庭などに眠っており、データ形式の関係で廃棄されつつあるものがあるが容易に想像される。

ただし、手話関連の映像には、個人の顔が映像の中心として入っていること、語りの場面により個人的な内容が含まれている可能性が大きいこと、さらに、古い資料の場合にはデータの所有者への説明と意向の確認などの手続き面でのハードルに加え、データの所在の確認と提供への説明と促しも必要になる。また、DH化によりデータ化した資料の元の所有者の権利関係や、一般利用に供する場合の手順などをクリアにしておかなければ、研究者以外の協力を得ることが難しい。

以上のような状況に加え、通常の映像データアーカイブ化に関する課題、すなわち、①専門家に入ってもらっての技術的な解決方法の検討と仕様の検討、②映像の所有者および/もしくは映像に映っている方の許可取り、③資金の確保等、検討すべき課題が多く、人的資源や技術面などの関係で、現行の共生プロジェクトの範囲内での実現は困難である。 本応募を通じてDB構築(映像のDH化)のための方法や手順について幅広い関係者に関わってもらい、検討会(または勉強会)を通じて問題解決を行うものである。

1. 実施状況

第1回検討会: 2023年11月14日(火曜日) 13:00~17:00
第2回検討会: 2024年1月31日(水曜日) 18:00~20:00
第3回検討会: 2024年3月4日(月曜日) 18:00~21:30
※いずれもオンライン

2. 実施内容
・「手話言語学およびろう文化関連アーカイブ(仮称)」設置の実現にむけた要検討事項のとりまとめ
・「手話&ろう博物館準備委員会」および明石・伊丹「ろう史と手話」研究会関係者をも含めての検討によるソースコミュニティおよび一般利用のニーズに関する情報収集
・法的手続きおよび映像公開に向けての処理に関する手順に関する情報収集
・国立民族学博物館におけるデジタルデータ資料受け入れに関する現状確認
・上記に基づく今後の進め方の検討

プロジェクト実施1年目として、これまでふたつの拠点機関で蓄積されてきている特定のコミュニケーション弱者を対象とした研究成果をまとめ、コミュニケーション共生という広い視点からの検証しなおすための資料として出版する。また、現状における知識の実装・公開の場として、国際研究集会の開催、言語に関する展示を開催し、その効果を、コミュニケーション共生という新たな視点から検証する。これらの結果に基づき、今後5年間における各機関での継続課題と、本プロジェクトで特にとくに焦点をあて、協働してすすめる具体的な研究対象と協力機関について議論し、研究体制を確立する。

1) 各研究班の起ち上げと研究組織の構築

2) 令和3年度の人間文化研究機構「コミュニケーション共生科学の創成」プロジェクトで実施した手話談話に関するデータの整理および公開準備

3) NPO法人日本手話教師センター、関係学術機関との協働による手話言語学に関する国際会議を利用した多手話言語を含む聴覚障害者対応の実装実験と課題の洗い出し。

4) 筑波技術大学、ムーンショット型研究開発プロジェクト(目標1および3)、その他関連プロジェクトとの協働による秋の特別展の場を利用した公共施設におけるコミュニケーション共生に関する実装実験と課題の洗い出し。

5) 上記2)~4)関連の成果公開のための出版物の刊行準備。

 

各班の実績

視覚班
・日本手話の談話映像を収録し分析と公開のための整備を進めた。

非視覚班
・ユニバーサル・ミュージアム岡山巡回展の開催準備をすすめた。
・キックオフ研究会を行った。(2022年11月26~27日に静岡・ヴァンジ彫刻庭園美術館(静岡)
・言語管理研究会とのネットワーキングをすすめた。

脳科学班
・手話失語に関する評価基準策定のための準備を進めた。
・特別展で研究概要ポスターを展示した。【学際性】

社会特性班
・外国人:多言語多文化状況における言語問題に関するウェブ調査を行った。
・自閉症者:定型発達者のAQ調査の分析+ 自閉症者会話コーパス構築準備をすすめた。
・高齢者:共想法談話の検証手法の整備、予備調査を行った。